請負業務で、諏訪東京理科大のオープンキャンパスに、エンジニア希望の高校生を引率してきました。彼らが垣間(かいま)見た情報工学の世界は、どの程度ブラックだったのでしょうか?
山の中にある諏訪東京理科大
長野県の諏訪東京理科大は、JR中央線の茅野駅から、バスで15分ほど山に分け入った場所にあります。引率したエンジニア希望の高校生も想像以上の田舎ぶりに驚き、長野市の学校の方がいいとつぶやく生徒もいました(笑)
諏訪東京理科大
・長野県茅野市豊平5000−1
・工学部(コンピュータメディア工学、電気電子工学、機械工学)と経営情報学部
エンジニア希望の高校生に対してほとんど宣伝なし
諏訪東京理科大のキャンパスは、山の斜面に建てられ、2階が1階につながるなど不思議なダンジョンの様相。ソーラーパネルが多数あり、1割程度の電力を担っています。太陽が近く山好きには素晴らしい健康的な環境。
驚いたのがオープンキャンパスなのに大学の宣伝がほとんどなかったこと。最新のトピックスである、公立大学化の動きを説明したくらい。仮に公立にならなくても学費は最安値クラスとのこと。
説明は10分くらいで終わり、研究室の教授と学生によるプレゼンテーションが始まります。最も高校生の注目を集めたのが、ルービックキューブを解くロボット。プログラムに沿って動くマシンは、わずか1分ほどでルービックキューブを完成させました。
このあと、意外な展開がありました。盛り上げ要員として競争した教授が、ものの30秒ほどで完成させ速さでマシンを圧倒。まあ、プログラミンングされた内容を分かっている人だから当然なのですが、興味深い展開です。
全体として学校の説明でなく、誰もがここに入学すれば、これまでと全く違う生活体験を得られることを遠まわしに印象づけるプログラム(決してあなたもできるなどとは言わず、淡々と学生の研究成果を見せていく感じ)。高校生の感想を見ても「難しそうだがワクワクした」「ここで頑張れば就職できそうな気がする」など狙い通りでした。
オープンキャンパスでは、簡単なゲームプログラミングを体験させる学校もあるのですが、諏訪東京理科大は「簡単にできること」を提示しなかったことにも感心。誰も自分が簡単にできることしかできないやつだとは思っていないので。
つまらないが重要なことも外していない
ここに来れば就職にもつながり、何よりそれ自体わくわくする生活体験を得られる。諏訪東京理科大はそれを伝えることに終始したわけではありません。情報の歴史もコンパクトに説明されました。
- 1970~2000年 ハードの時代(IBM、HP、Fuzitu)
- 1985~2010年 ソフトの時代(MS、Just System、Lotus)
- 2000年~ サービスの時代(google、DeNA、Rakuten)
これらは高校生にとって、必ずしも興味深い話ではなく、反応は良くありませんでした。しかし、彼らが大学で何を学ぶのかを決断する時に、今後も永続性のある研究テーマや就職先を選択するために、情報の歴史を見せておくことはとても重要。
諏訪東京理科大がオープンキャンパスで紹介した「諏訪のポータルサイト」には、高校生には難しい技術が使われていました。しかし、シンプルなサイトなら、はてなぶろぐでも作成できます。エンジニア希望の高校生が書いていると分かれば、本物のエンジニアがいろいろとコメントしてくれますよ、と大学を出てから伝えましたが、実践してくれるでしょうか?
経営学を駆使したプレゼンテーションの手法?
諏訪東京理科大は、経営情報学部を持っています。そのためマーケティング手法をオープンキャンパスに応用しているではないかと思い、入試課に尋ねてみました。すると、毎年オープンキャンパスを重ねるたびに、この形ができてきたとのこと。実質的に顧客の潜在的な心理を理解すれば、ほぼ自動的に的確なマーケティングになるということのお手本だと感じました。
- 顧客の生活の様子や、潜在的に気にしていることを正確に理解しているかどうか。
- それに対するソリューションを、押しつけたることなく、伝えているかどうか(結論に誘導するのではなく、結論の手前まで飛び石を置き、最後はユーザーに飛んでもらう感じ)。
エンジニア希望の高校生は、技術に興味があるものの、日常生活では本格的な技術に接する機会がありません。また、将来への漠然とした不安を抱え、就職については、潜在的に気にしています。また、自分が簡単なことしかできない人材だとは、考えていません。情報系の専門学校は、簡単な技術を体験させ、面白がらせる方向性のオープンキャンパスを組む傾向があると感じます。これは、ちょっと違うのではないかと感じました。